この記事の要点

  • 高校生の57.7%が学習でAIを使用。AIは「学習用の文房具」として定着しつつある。
  • 「深く考えて解く時間が減った」と感じる中高生は5割超。学びの速さと深さに乖離が生じている。
  • 「何のために学ぶか」という内発的動機の育て方が、AI時代の教育設計の核心になっている。

高校生の57.7%が、学習でAIを使っています。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2025年7〜9月に実施した「子どもの生活と学びに関する親子調査」(小学1年生〜高校3年生、約20,000組対象)が示したデータです。本記事では、この調査から読み取れる3つの変化と、教育関係者・保護者・政策担当者が今後の設計において意識すべき視点を解説します。

「子どもの生活と学びに関する親子調査」とは

「子どもの生活と学びに関する親子調査」とは、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2014年から共同で実施している、小学1年生から高校3年生とその保護者を対象とした継続的縦断調査です。

2025年調査は2025年7〜9月に実施され、約20,000組の親子から回答を得ています。同一の親子を毎年追跡するパネルデータであるため、単年の断面調査では見えにくい「時代変化」と「成長・発達プロセス」の両方を捉えられる点が、この調査の大きな特徴です。

2025年調査が示す3つの変化

変化①:AIが「学習用の文房具」として定着した

学習でAIを使う割合は、2025年時点で小学4〜6年生が15.2%、中学生が33.5%、高校生が57.7%でした。2023年から計測が始まったこの項目は、わずか2年で高校生の過半数を超えるまでに拡大しています。

一方、学習以外(遊びやSNSなど)でAIを「使わない」と答えた高校生は51.3%と半数を超えています。動画視聴やSNSを「ほぼ毎日」利用する高校生が6割を超えるのと対照的に、学習外でのAI利用は限定的です。

この対比が示すのは、子どもたちがAIを「遊び道具」ではなく「学習のための道具」として認識しているという実態です。問題は、AIを使っていること自体ではなく、その「使い方の設計」が追いついていないことにあります。

変化②:「深く考えて解く時間」が中高生の5割超で減少している

デジタル機器を使った学習について「深く考えて問題を解くことが減った」と感じている中学生・高校生は、2025年にいずれも5割を超え、増加傾向にあります(中学生52.1%、高校生54.7%)。

同時に、デジタル学習に対するポジティブな評価も高く、「内容がわかりやすい」「学習が速く進む」と答えた割合は6〜7割に達しています。

「速く進む」という体験と「深く考える時間が減った」という感覚が、同じ子どもの中に並存しています。AIは問いに答えます。しかし「どう問うか」は教えてくれません。答えが出るまでの「わからない状態に留まる時間」をAIは短縮します。その時間こそが思考の鍛えられる場所だとすれば、利便性の裏側に見過ごしたいコストが潜んでいます。

変化③:「学び方がわからない」が全学校段階で高止まりしている

学習意欲・学習方法の理解に関するデータは、より構造的な実態を示しています。

設問 高校生(2025年) 高校生(2016年)
「勉強しようという気持ちがわからない」 66.6% 51.4%
「何のために勉強しているのかわからない」 47.0% 36.7%
「上手な勉強のしかたがわからない」 71.2% 68.7%

「上手な勉強のしかたがわからない」は7割前後という高水準が続いており、「勉強しようという気持ちがわからない」は2016年比で15ポイント以上増加しています。小・中学生でも同様の傾向が見られ、これはAI普及と切り離せない構造的な問題です。

さらに学習動機を見ると、「先生や親にしかられたくないから」「成績がよいと周りの人がほめてくれるから」といった外発的動機が全学校段階で増加傾向にあります。AIが「すぐ答えを出してくれる」環境が整っても、「何のために学ぶか」という内発的動機が育ちにくくなっている構造が、この数字から浮かび上がります。

なぜAIが「速さ」をもたらしても「深さ」が育たないのか

小・中学生のデータに、示唆に富む変化が見られます。「自分に合った勉強のやり方を工夫する」と答えた小4〜6年生は2017年の56.5%から2025年には47.0%へと低下しています。「問題を解いた後、ほかの解き方がないかを考える」も41.2%から30.6%へと減少しました。

自分の理解の輪郭を自分でつかむ、メタ認知的な学習行動が弱まっています。AIが「答え」を瞬時に提供する環境では、「何がわかっていないかを確かめる」プロセスをスキップしやすくなります。この「スキップ」の積み重ねが、学習の「速さ」と「深さ」の乖離を生んでいます。

なお、高校生については「何がわかっていないか確かめながら勉強する」が2017年の63.4%から2025年には68.3%へと増加しており、学校段階によって様相が異なる点も留意が必要です。この調査は小学1年生から高校3年生を対象としており、学校段階ごとの比較から見えてくる構造こそが、この調査の強みのひとつです。

現場で見えてきたこと:AIをうまく使う学生の共通点

私が理事を務める神山まるごと高等専門学校では、AIを日常的に使う学生が多く、授業でもプロジェクトでも当たり前のツールとして活用しています。

そこで観察されるのは、AIをうまく活用している学生に明確な共通点があるということです。彼らは「これを調べたい」「この仮説を確かめたい」という自分の問いを先に持っています。好奇心や目的意識があって、その上でAIを動かしています。

逆に、AIの出力をそのまま受け取ることに慣れた学生は、答えは出るものの自分がどこにいるのかわからなくなる場面があります。これは能力の差ではなく、「自分で問いを立てる習慣があるかどうか」の差です。

教育設計に求められる3つの視点

調査データと現場の観察を踏まえて、学校・家庭・政策設計において意識すべき視点を3点挙げます。

1. 「何のためにAIを使うか」を子ども自身が持てる設計

保護者の約4割が「AIを積極的に子どもの学習に取り入れたほうがいい」と回答しています。後押しの姿勢は広がっています。しかし「使う」こと自体が目的になると、深さは育ちません。AIを使う前に「自分は何を知りたいか」を言語化する習慣をどこで育てるかが、設計の核心です。

2. 「わからない状態に留まる時間」を確保する学習デザイン

「速く進む」ことを評価する軸のままでは、AIを使うほど「わからない時間」が短縮されていきます。授業設計において、あえて答えをすぐ出さない場面、「わからないまま考え続ける時間」を意図的に設けることが重要です。

3. AIが生んだ「時間」を「広さ」に使う発想

AIが学習を速くしたとすれば、その分の時間は「広さ」に使えます。これまで時間がなくて辿り着けなかった問い、別の分野への好奇心、深掘りの余白——その時間をどう設計するかが、教育者に問われています。AIは手段です。何を学ぶかを決めるのは、やはり人間の仕事です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高校生がAIを使って勉強することのリスクはどう見られていますか?

2025年調査によれば、「深く考えて問題を解くことが減った」と感じる高校生は54.7%に達し、増加傾向にあります。AI利用そのものが問題なのではなく、「自分で問いを立てる」「わからない状態に留まる」といったプロセスをスキップしやすい環境が、学びの深さに影響を与えている可能性があります。

Q2. AIを使いながら深く学ぶ高校生と、そうでない高校生の違いは何ですか?

現場の観察では、AIをうまく活用している学生は「自分の問い」を先に持っています。「何を調べたいか」「どの仮説を確かめたいか」という内発的動機があって、その上でAIを動かしています。AIの出力を出発点にするのではなく、自分の好奇心を出発点にしている点が共通しています。

Q3. 保護者や教師は、高校生のAI学習にどう関わることが望まれますか?

「AIを使っているか」を管理するよりも、「何のために使っているか」を一緒に考える関わりが有効です。同調査では、保護者が「勉強の意義や大切さを伝える」「勉強で悩んだときに相談にのる」といったかかわりを増やす傾向が見られます。AI時代の保護者・教師の役割は、答えを与えることではなく、問いを育てることにシフトしていると言えます。

まとめ

本記事では、「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」をもとに、子どものAI学習利用をめぐる3つの変化を解説しました。要点は以下の3点です。

  • 高校生の57.7%が学習でAIを使っており、AIは「学習用の文房具」として定着しつつあります
  • 「深く考えて解くことが減った」と感じる中高生は5割を超え、増加傾向にあります
  • 「学び方がわからない」「勉強する気持ちがわからない」は高止まりまたは増加しており、AI普及とは別の構造的な課題として向き合う必要があります

AIが学習を速くした今、その先に何を学ぶかを設計する責任は、学校にも家庭にも、そして政策にもあります。


出典・参考文献

  1. 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所
    「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」ダイジェスト版(2026年3月31日発行)
    https://benesse.jp/berd/special/childedu/

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